新プロジェクト

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  • 空間コード研究は,現在という時間の断面に立ちつつ,都市に蓄積された持続的空間文脈を読み解こうとする試みです。その意味で,長きにわたる人と土地の関わり合いのプロセスが刻印された歴史的環境は,恰好の考察対象と言えるでしょう。

    歴史的環境は,時間の積み重ねを通じて生まれます。しかし,積層しているものすべてが等しく古いわけではありません。たとえば,基盤をなす地形・水文環境とその上に形成された町並みでは,成立時期や変化の速さがまったく異なります。

    空間コード研究では,そうした波長の異なる変化の存在を前提として,それら全体を俯瞰することから都市の「らしさ」を掴もうとします。たんに古いものほど価値が高いと考えるのではなく,さまざまな波長を伴って継起するリズムを大事にしようということです。

    近世以降に骨格が固まった城下町・名古屋を例にとって考えてみましょう。

    城下町が建設された熱田台地は,およそ15万年前に形成された洪積層です。対照的に,台地の西側を流れる堀川は,わずか400年前,名古屋城と熱田湊(現在は名古屋港)を結ぶために開削された人工水路です。しかし,熱田台地の際を走る等高線を巧みに探り当てたこの運河は,今では,城下町・名古屋の環境の一部として,熱田台地と一体化した半自然ともいうべき存在になっています。

    そうした環境を舞台装置とする人々の営みは,城下の各所に個性ある町を産み落としました。地盤のしっかりした台地上に整備された町割は,広々とした敷地を有する武家地となり,台地を西に下った堀川端には,美濃路や堀川を交通軸として,商家や蔵が蝟集する町ができました。数百年が経った現在,建物やその経済的機能は大きく変わりましたが,街路・水路や町割に支えられた町の雰囲気は,今もの町の端々に受け継がれています。

    自然環境を構成する要素のなかでも,植生は,地形や水文と比べて変化のサイクルが短いことを特徴としています。しかし,変わりゆく姿を確認できるからこそ,多くの人々が庭木や植木鉢,公園の緑といった植物のなかに,環境との主体的な関わり方を見出しています。そして,そうした自然とのつきあいにおいても,大きな庭のある旧武家地の邸宅と多くの民家が通りに接して軒を連ねる町内では,各々に流儀が異なっているように思われます。

    近世城下町の町割や近代の鉄道敷設のように,後の時代のインフラを用意したビッグイベント。あるいは,街路や水路を支えとして培われた地縁・水の縁のように,人々の日常に根づいた空間の作法。前者が新しい町をつくり,既存の町の立地条件を大きく変えるものであるとすれば,後者は,所与の条件に適応することで,町の使い勝手を良くしようとする無意識の行動の積み重ねと言えるでしょうか。

    重要なのは,さまざまな波長の変化が響き合う交点に都市の「らしさ」を見つけることです。私たちがいかに美しいと感じる歴史的町並みであっても,それは到達すべき姿かたちとして最初に決められたのではなく,変化の一断面として立ち現れたものです。空間コード研究は,現在という時に特権的な地位を与え,そこから過去を照射するのではなく,時に身を委ねつつ,過去から未来へと変化を繋ぐための方法論なのです。

    ■研究論文
    名古屋・白壁地区の緑に表れる都市の持続的文脈

    ■研究報告
    緑から読み解く都市の持続的文脈(白壁エリア)

歴史


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